羽
“飛び立つための羽
ほぼ生えそろい
まだ暗い空を見て
迷いを捨てる”
稲葉浩志
「寝袋」
「テント」
「…ほかキャンプ道具は積載済みと。」
「各種充電ケーブル、モバイルバッテリー、AC出力対応モバイルバッテリー、防寒用アンダーウエア、下着、カッターナイフやメジャー、救急キット、エマージェンシーヒートシート、ヘッドランプ、カメラ用レンズ、ミニ三脚、チタンチェーン3m、箸、傘、五輪書、パラコード…」
「あとはもう…その他諸々、積載済みっ。」
戦う準備は、できている。
~HOTEL LiVEMAX相模原~ :朝
あとはもう…心の問題か。
窓の外には晴れ空が佇んでいる。青い絵の具を水でうすめ、スーッと塗りつぶしたような。さわやかな青だ。
…だが、ふっと目を閉じてみると。たちまち仄暗い不安と恐れが顔を覗かせてくる。
私はこれから、旅に出る。日本を巡る旅だ。
いったいなにがどうしてこうなったのかは、追い追い説明したいと思う。自分でもよくわからないところはあるのだが。
その旅立ちを眼前にして、ただいま絶賛、自分に喝を入れているわけなのです。
他人にだったら言うだろう。「恐ければやめればいい」と。ただ、男には、俺には一度決めた以上、絶対に曲げたくない目標というものがあるのだ。この旅はもう、”やってみたいこと”というより、”使命”と呼ぶにふさわしいものとなっている。
それに。
「カッコいい姿で、旅立ってください」
「お仕事ファイトおーです!」
「1年なんてあっという間だよ。がんばってね!」
理髪店のスタッフ、隣のツルハドラッグの店員、スナックの姐さん。……
たかだか職場に近いからと引っ越してきただけの街で、こんな私を、少なからず気にかけてくれる方々がいる。
嬉しいことではないか。幸せなことではないか。このあっという間の人生の中で、応援してくれる人間に出会えることは。
つくづく、思うのだ。
私は、私によくしてくれた方々に、「木村と知り合えて光栄だった」と、言ってもらえる人間に私はなりたい。それが、私の精一杯の恩返しだと思うから。
そうだ、自分だけのことじゃない。人のためなら、戦える。
息を吸い、吐く。ビジネスホテル特有の、かしこまった香りが胸に入った。
…もっと美味い空気を吸いに行こうか。
駐車場では、愛車が旅立ちのときじっと待っていた。
私はそいつに、火をくべて。
さあ、行こうか。
風来記
~始~