風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

ナモミハギ

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「えー先ほどお晩ですとご挨拶いたしましたが、これは今が大晦日の暮れを想定しているからでありまして、外は真っ暗、雪が降り積もり、寒さの厳しい家屋の中ということでとり行なわせていただきます――」

 

…ヤバイ、緊張してきた………!

 

 

 

―――1時間ほど前。

 

一晩中エンジンをつけっぱなしにした秋田トラックのおかげで眠り込めず、5時ごろ悪態をつきながらテントから抜け出る。劈掛拳の練習をして、身支度を整えたら地図を開いた。

「県道がメインか…、まぁ観光地だろうし、大丈夫だろ。」

今日は男鹿半島へ向かう。秋田の地形を見る限りで、数少ない面白そうなところだ。

 

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国道101号を南下。道の大部分はぐねぐねかつ狭く、両側から木々が生い茂っている。その合間に畑やビニールハウスなどを抱えた農家があり、また木のトンネルへ…の繰り返しだった。

男鹿半島が見えると間もなく、半島海沿いの県道55号に入れる。

 

龍飛岬の陸奥湾側よろしく、住宅の間を縫うようにして進んでいく。このまま半島突端の入道埼まで行ってもよかったが、その前に寄りたいところがあった。

 

 

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海沿いから内部へ入っていくと緑が一層深くなっていき、やがて道路をまたぐ鳥居の下をくぐらされる。神域が近いという証だ。

 

 

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寄ってみたかったのはここ、『なまはげ館』だ。

秋田といえば、やはりなまはげ! ………というかそれぐらいしか思いつかず、ひとまず第一目的地として訪れようと決めていた場所である。

受付に参ると、「もうすぐなまはげの再現が始まりますよ。」との案内が。

「えっほんとですか? 見たい見たい!」

と二つ返事で答えた。

なまはげが行なわれるのは1231日の年の瀬。まぁどう考えても見られないだろう…と思っていただけに、有難い催しだった。

 

 

古民家を移築したという伝承館へと案内されると、座敷に座らされる。

なまはげさん達が入ってくる前に、女性スタッフがいろいろと説明してくれた。

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囲炉裏で暖をとっていると手足に火形がつくが、これを当地の人々はナモミというのだという。ナモミがある人は冬に働きもせず怠けている者とされるそうで、それをはぐ者としてナモミハギ、訛ってなまはげとなったとのことだ。

要するに怠け者や卑しい人を戒める風習なのである。

 

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ここ真山地区のなまはげは三人一組で行動するらしく、まず先導さんが「なまはげさんが来たけど、入ってよろしいか?」と問い、親方がそれに答えるところから一家の行事は始まる。詳しくは忘れてしまったが不幸などがあった家には入ってはいけないらしいので、こうして是非を問うみたいだ。

 

で、「なまはげさんどうぞ~」的なことを言うと。

「んお“――――!」

というものすごく低い雄たけびが家屋の外から上がり、そして

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なまはげがピシャリと障子を開け、四股を踏んでから入ってくる。

先ほどと同じ何処から上げてるんだかわからない重低音の雄たけびを上げ、家の中をグルグルとひととおり回って悪い子を探し回ると。親方が料理と酒でもてなし、そこになまはげが着く。

 

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それから暫くは秋田弁で「今年の収穫はどうだった」「奥さんは元気か」といった近況を言い合う問答が始まる。「妻子供はなまけてんじゃねぇか」という問いに、親方はかばうようにして答え。それに対して「真山のてっぺんから見てんだ嘘はいけない」という風に、なまはげ達も応答する。

 

そんな恐くもちょっぴり微笑ましい時間が終わると、なまはげはまた唸り声を上げながら練り歩く。その際、目の前に立たれて

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「まじめにやってっか!?

と聞かれたので

「は、はいっやってます」

と答えた。

やがてなまはげたちはまた四股を踏み、去っていって再現は終わった。

 

 

 

「やっべぇーーーなまはげさんと話しちゃったよ、俺!」

と、伝承館を出てから自分でも驚くほど興奮してしまった。

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ケデと呼ばれる藁の衣装から抜け落ちた藁には神聖な力が宿っているらしく、家の中に落ちたそれらは掃除されず一晩は放置されるという。

私もせっかくだからもらってきて、ご利益があるからと教えられたとおり頭に巻いたりして遊んだ。

 

 

 

その後博物館を見た後、なまはげが下りてくるという真山の神社へ。

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良い森だ。

なんていうんだろうか。映画に使われるような、絵に描いたような昔ながらの森が残っている感じである。

人工物もあるし、人の手が加えられてはいるのだが、茨城の鹿嶋神社みたいな人の文化の塊って感じもしないし。人里離れた立地が荘厳な雰囲気を纏っているのかとも思ったが、福島の霊山神社ともまた違った心地よさがある。うん、そう。なんだか和むのだ。なんでだろうなぁ…。自然も人間が好きだから、そうしてくれているような。

 

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男鹿には80以上の村があるそうだが、大晦日になると今でも全ての地域で、なまはげが練り歩いているのだという。地域ごとに衣装は作法は異なるらしく、真山地域の特徴は角がないこと。あくまで神の使いとして崇めているからとのことだ。

なまはげ達は祈祷を受けてお酒も入るので、10軒あたり回ったところで役を交代するという。それでも雪降りしきる山の中、藁ぐつを履いて歩き回り、10軒も祭事をするなんてすごいことだ。

 

博物館の映像で見た泣き叫ぶ子供たちには悪いが、ここの子供たちは幸せだなとつぶやいてしまう。

今の時代じゃ煩くなった、怠け者卑怯者は恫喝されて叱られるっていう教訓を、神事として体験することができるなんて有難い話じゃないか。その有難みがわかっているから、成長したら今度は自分たちがなまはげに扮して、寒さに堪えてまた次世代を泣かして…。

そうして連綿と続いていく伝統を想うと、なんだかホッコリしてしまった。

 

泣く子供たちの後ろで笑う大人たちを見ると、確信する。皆もきっと、そういう想いなんだろう。

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