風の岬
前回より
青森まで旅に来た人は、不思議とみんな下北の方へ行ってしまうのではないだろうか。小ぶりではあったが陸奥市街もあるし、大間のマグロもあればフェリーターミナルもある。なにより、"本州最北端"のレッテルもある。
そのままの足で津軽も…というのは少々骨が折れるわけで。
そんな背景もあってか、龍飛岬までの道のりは寂しいものだった。
海岸スレスレの細い国道を、ひたすら走っていくと、やがて急峻な坂道に突っかかり、龍飛岬の看板が見える。
「御覧あれが竜飛岬北のはずれの…」
やはりというか期待通りというか、麓には石川さゆりが歌った名曲『津軽海峡冬景色』の石碑があった。ボタンを押せば割と雄々しい音量で曲が流れる。
龍飛名物、日本唯一の歩行者専用国道・階段国道339号線も踏めた。ただわざわざ下るには骨が折れそうなので、上の階段村道を通る。
これまた急な階段、坂を上り、展望台を目指す。
到着。
北海道と、かろうじて下北半島が見えた。
看板を見ながら、「あそこが大間で、あそこから函館まで…」と汗を拭いながら過去をなぞる私を、風が撫でてくれた。
“風やわらかく、草木は青み、海原ものどかなところ”
そんな触れ込みのここは、別名『風の岬』と呼ばれているらしい。
先も言ったが、津軽方面は特に観光地などがない(と思う)。強いて言うなら、青函トンネルの要所であり、ここ龍飛岬の灯台もまた海人たちにとって要所である、というぐらい。
そんな、色気など捨て去って、ただただ、意味があるものだけが鎮座している男気あふれる龍飛岬。辿り着いたらさぞ強い風が…と思いきや、優しくなよ風で”よく来たな”と迎えてくれる様は、なんというか、とてもカッコイイ大人に思えた。
振り返る。坂を翔け昇って頂上へと到達し、海を臨むこの感じは。まさに、龍が飛び立つ瞬間を飾るに相応しい場だと思った。
見下ろしていると、家族連れやツーリンググループなど、人が何人か登ってくるのが見える。そういえば今日は日曜日だったな。
ああしてみんなと来れば。ここまでの、そしてここのどこか悲しい景色もまた、楽しいものなんだろうか。そう考えると、少し羨ましくもなるけど…。
こうして風と龍への憧憬を友に、海を眺めているのもオツなもんである。
今は、孤独でいい。いや、孤独だからこそ。人と出逢い、話せたときの暖かみは確かなものなのである。
その有様は、もう孤独とは呼べまい。孤高って言えるのではないだろうか。
「そんな人間に、なりたいもんだな。」
人を慈しむ風のように、孤高の龍のように。
貴方は私の憧れです。そう呟いて、風の岬を後にした。