蒼白
6月27日
音威子府村では、以前神奈川に住んでいた時に食べた音威子府の黒い蕎麦を食べてみたかったのだが。雨足の関係上、そんな余裕はなさそうだ。
ここからは国道40号と275号に道が分かれるが、海沿いを走れる275号をチョイスした。
少し振り切れてきたのか、雨が弱くなると不思議とロケットⅢの調子も良くなった。
60㎞/hで巡行したいのに、70前後出ている。
気分が高揚して右手が力んでいるのか、それとも緩やかな下り坂なのか。
いや、非科学的だが、ロケットⅢも待ち望んでいるのだろう、最北端を。
それでも猿払村に入ると、一層険しい雨が降ってくる。
シールドを雨粒が叩く音が聞こえてくる。
「うるせぇうるせぇうるせぇ!」
もうとっくに、二日かけて宗谷岬を目指そうなんて考えはなくなっていた。
私は決めたのだ、今日はただひたすら、走る。走っていたい。留まることを知らぬ風のように疾っていたい。
雨なんぞに足を止められてたまるか。負けてたまるか。路面に細心の注意を払いながら、3気筒の重低音を雨風吹き抜ける果ての大地に響かせる。
見えるのは酪農用の丘と、深緑色にうねるオホーツク海のみ。
“宗谷岬”の看板が見えてくると、おおよそここは日本と思えない奇怪な地形が姿を現してくる。
恐らく、これが最後と思われる峠を越える。目の前を、蒼白が覆った。
そして、14時59分。
走行開始から約6時間半後。
木村峻佑、日本最北端の地をこの足で踏んだ。
叫んだ。
笑った。
少し、泣いたかもしれない。
今私は、日本の最北端に立っている。
たぶんほとんどの日本人が、今、私の背中の後ろにいる。
たまらん。遂に、か。
まだまだこれからだとか、雨がもう降りだしてきて寒いとか、野宿場所決めてないとかいろいろ思うところはあったが、とにかく嬉しい。
果てまで来た、私は最果てまで来たよみんな。悶えてしまう。
安堵すると、途端に空腹感が襲ってきた。
そういえば今日は、10時ごろ道の駅で小さいカレーしか食ってない。
さて、周りの食事処でも覗いて…。