まだまだ
6月19日
「おお、ここはキャンプ場があるのか…。」
道の駅がまったくないのでどうしたものかと思っていたが、なんと無料開放のキャンプサイトがあって胸中踊る気持ちだった。なんと炊事場まである。
駐車場にバイクを停め、歩き出すと。
「いらっしゃーい! お茶飲んできませんかー?」
通路に並んでいる食事処の一角の婦人が、声をかけてきた。
“金取られないだろうな…?”と邪推しつつ、屋根の下にいれてもらう。
「そんな恰好で寒かったでしょー、今はね、”やませ”だから。夏とはいえ寒いよ~。」
「なるほど。これがやませですか。たしかに実に寒かった。」
バックパックを降ろすと、席に通されお茶を一杯出された。
「—そっかぁ、北海道まで行くんだね。あそこはステキなところがいっぱいあるから、時間をかけて見てきなさい!」
ただし、お金はなくなっていっちゃうもんだから、アルバイトしなさいとの助言をいただく。向こうは働き口が多くあるとのことだ。
「向こうでいろいろやって、自分が何をしたいかがわかって、ここから動き出す…。って人はけっこういるのよ。あなたもいい経験があるといいわね。
ま、今晩はそこにテント張って休んで、明日は温泉にでも入って元気に行ってちょうだい。」
風をしのげるポイントを聞いて、店を出る。
さて歩を進め…ようとすると、また
「コーヒー飲んでってー。」
…今度も、お金は取られないだろうな?
「今日お客さんいないからさ、寝ちゃってたよ。ホラホラ、そこにミルクとお砂糖あるから、好きに入れて頂戴。疲れがとれるから。」
もう、言われるがまま店に入り、席につき、コーヒーを飲んでいる私がいた。
「—なるほどなるほど。若いうち…いや歳をとってもさ、好きなことをして生きていけるのはいいよ。苦労してお金を稼いで…って生き方もあるけどさ、なんだかねぇ。」
語る婦人も、お客さんと会話をしながらのんびり店をやって。と好きなことに従事しているようである。だが最近はコロナの影響で客足も減り、退屈なんだそうだ。
「お兄さん化粧したら、いい女になりそうな面構えしてるよ~。」なんて茶々を言われながら、店を出ようとすると
「あっこれ持ってって! 残りもんだけど。」
なんかいろいろ頂いてしまった。
大間の人、ヤベェな!!
『あけみちゃん号』の奥さんに深々と頭を下げ、その場を後にする。
マグロをウリとしたいくつかの食事処を横目に過ぎていくと、たどり着いた。
ついに、来た。大間。
本州最北端の地。ここへ来たのは先に言った家族旅行以来の2回目である。
あのころは”一番上まで来た!!”と喜んでいたものだったが。
「今回は、そう喜べないんですよねぇ。」
霞みがかって到底見えそうにはないが、この先に、北海道がある。そしてその先には、本当の最北端が待っている。
そこへ明後日、向かう。
とても、こんなところで満足しちゃいられないのだ。
すうと息を吹き込むと、気合いを入れる。
「待ってろよー!! 北海道おーーーっ!!」