風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

無銘の地にて

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朝方、小川原湖付近から北へと出る。

あたりは湿地帯が多いからか、霧に覆われていた。

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とはいえ山のような前方が見えない嫌な霧ではなく、彼方が見えないという光景を素直に美しいと思いながら走れる心の余裕があった。

 

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路の大半は緑の中を突っ切っていくような感じで、岩手の盛岡~龍泉洞の道のりを思い出すのだが、やはりあちらと違ってこちらは山ではなく曲がりも少ないので、肝を冷やさずに進めた。

 

まさかりの持ち手を、太平洋側から陸奥湾側へと横断する。太平洋側を尻屋崎へと突っ切っていってもよかったのだが、内側へ回ったのはある寄りたい場所があるからであった。

 

「おお、ここだここだ。」

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国道279『むつはまなすライン』の道中には時折浜へと抜ける小路があるのだが、このひと際大きな横道が私の目当てである。バイクを道路脇に停め、歩き出す。

 

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ここは幸田露伴という方の文学碑が置いてあるプチ観光スポットなのだが、正直そちらはどうでもよくて。

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紀行文の中の一節。左に絶えず続く海原に咲き誇る花々の中を、大小様々な馬たちが自由に歩き回っている、的なことが書いてあった。

 

 

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線路を渡ると、私の見たかった景色は見えてくる。

 

 

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ああ、もう一度来れた。

 

何もない、狭い砂浜。

少しのブロックと流れ着いたゴミがある、本当に何もない空間。だが、その何もないところに惚れたのは、もう何年前の話だろうか。

 

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例によって母に連れられた家族旅行で、ふとした拍子に寄った場所。陸奥湾特有なのか不気味なほどに穏やかな海と、先の見えぬ彼方の景色に、まるで天国のようだと母と話したばしょである。何もない、誰もないので、姉と水切りをして遊んだっけ。

 

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………。

しばし、見つめていた。

 

天気が悪いからなのか、あの頃のような不気味なほどの美しさが見れなかったのは残念だが。

それよりも、ただ、"また来れた"という実感だけが私の胸中を満たしていった。

女々しいが、往年の思い出を巡るのも旅の趣きである。

 

近くにないからこそ、恋しくなる。もう変わってしまったかなと、少し不安になる。そんな年月を重ねたうえで再び訪れたときの感触は、旧い友人に何十年ぶりに会ったときのそれに近いのではないだろうか。

この感触は暖かいような虚しいような、とにかく形容しがたいものなのだが、個人的には好きなので。

この旅でもっと、そう味わえる場所を見つけていきたいと考えたしだいなのであった。

 

 

みんなもそういう場所、あるだろう? ないって人は、見つけてはどうだろう?

なあ、旅に出てみないか。

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