風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

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陽が落ちるまでと久慈を散策していたなか、喉を潤すためガラス張りの洒落たカフェ(バーとも思われる)へ入り込む。

アイスコーヒーとバニラアイスをいただいて。さて、そろそろ道の駅へ戻ろうかと思ったところ…。

 

「お客さん、何を納めてるんですか?」

と、マスターが訪ねてきてくれた。

「あらゆるものを。旅をしてるんです。」

と答えると、すかさずスポーツ刈りの先客が

「うえっ旅してんの!?

と、感嘆の声を挙げてくれた。

30代半ばに見える彼もまた、私と同じく神奈川に住んでいたのだという。父親が危篤になった折に、20年ぶりに久慈へ帰省して住みだしたそう。

 

「久慈の町はどうだった? 俺、若い頃は久慈が嫌いでさ…。どこか、排他的な目で見るところがあるじゃん。地方を盛り上げたいなら、そんなことしてちゃいけないのにさぁ…。」

彼の話によれば、ここ久慈も田舎の例に漏れず人口減少の一途をたどっているらしく、若者は都会へ出ていき、古い考えばかりが蔓延し、それで町は栄えず、若者がいなくなり…という悪循環に陥っているらしい。

 

たしかに軽く見まわした限りでは、久慈川や先ほど見てきた海など美しい自然はあるものの、遠方から来た人に対し観光名所と大手を振って出迎えてくれる…という感じはしなかった。

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それどころか、先ほどなんか警察に職質されたし…。

 

そんなことを教えてくれたマルさんと呼ばれる彼は、今はここを盛り上げるべく試行錯誤しているらしい。

後々、仲間だという行政で働いている友人ジュンさんも呼びつけてくれ、彼も交えて熱弁を繰り広げていた。

「交通の便をよくするために開通したあの道だってさ、昔の人が観光客を呼びたいって思いでやっと作ったのに、今の人らが今度はついていけなくなるから作らないでって批判してんの。馬鹿じゃねーのかって。」

ジュンさんは事なかれ主義を求める行政の中では稀有な存在らしく、昔からこの久慈に住み続け、改革を起こす瞬間を今か今かと狙っているそうである。

 

あの河原に店を開きたい、あの通りを店で埋め尽くしたい、花火大会をやりたい…。などなど、二人は様々な案をあーでもない、それでもいけないと話し続けている。

普段の私だったら空論ばかり語って…とさほど気にも留めないが、折に触れて本気なんだなと思う場面が垣間見れた。

 

「震災があった時さ、後輩が故郷の野田の惨状を見せてくれたんだけど。勤務中だったのに思わず泣いちゃったね。俺、もう故郷に帰れないんじゃないかって…。」

酒をあおりながら、ジュンさんは空を見つめ語る。その後マルさんを指さして、

「彼の親父さんはさ、ここの副市長だったんだよ。それがこの前亡くなっちゃって…」

「なんも言わずに逝っちゃったよ…。ただ、それを見たらなんか、久慈をなんとかしたいな、って思う気持ちになって。」

俯きながらボソボソ語るマルさんの腕には、いつからか雫がしたたり落ちている。

 

 

「ここで生きてよかったなって、ここで子供を、孫を育てられてよかったなって、思いながら死ねる町にしたいな。もっと、日常を楽しんでもらえる町にしたい。」

そう語る二人の胸の内には、静かだが、強かに燃え盛ろうとする、熱が確かに見えた気がした。

 

 

ああ、そうか。

さきほどもぐらんぴあでも感じたが、ここの人は、後世のことを、大好きな故郷のことを、まさに命を賭ける想いで考えているのだろうな。と、思わぬところで気付かされた。

いや、久慈だけではない。ここ日本の、消えゆく数々の田舎の中で。胸の内に火を秘めている者たちは何人もいるんだろう。迸る想いをぶつけたい人たちが。

 

もちろん、想うだけではダメである。地方創生とか地域活性化なんて、結局は金もうけをしないと意味がないとのマルさんの言葉通り、努力が伴わないとダメなのだが。

少なくともここの二人を見ていたら、ああ。ここは大丈夫なんじゃないか。と安堵した自分がいた。

 

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バー&ダイニング『KENSOH』を営む夫妻もまた、京都の街中からこの町が好きでこちらに移り住んできたらしい。

 

「やっぱり、外の人をもっと呼び込まないとダメだ。外の人しか、他と比べられないんだから。ここの良さがわからないんだから。」

「そんで熱を持った文を書いてもらうために、熱をもってもらわないとな!」

「よしっ君。もうちょっと久慈を見て行ってくれ。今夜はウチに泊ってきなよ!」

 


…えっ。

 

そんなこんなで、本日はマルさん宅に厄介させていただくことになった。

しかもジュンさんには、会計を任されていただいた。感謝の一言に尽きる。

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