太陽のような
6月16日
北山崎・黒崎より普代駅などで雨宿りをしつつ、雲の合間を縫って道の駅『のだ』へと滑り込む。
一息つく暇もなく、数分後にはまた豪雨の予報。急ぎツーリングバッグ類にカバーやコートをかけ、道の駅に駆け込もうとすると。
一人のライダーの後ろ姿が目に入った。
“…ん? あの風魔プラス1のツーリングマスター、それに、あのVストローム250…。まさか”
たちまち駆け寄り、
「賀曽利さん!」
白髪・小柄の年配男性は振り返ると、「ああ!」と言ってくれた。
そう、あの鉄人ライダー、として知られる、賀曽利 隆氏だ。
日本を何周もしていて、海外も走ってて、テレビにも出た、あの賀曽利氏である!
氏とは、以前雑誌編集の仕事をしていた際に面識があったのだが。覚えていただけているとは嬉しかった。
「谷田貝(以前の職場の上司)から日本一周してるとは聞いてたんですけど、まさかここで出逢えるとは…!」
「いやあ、分割式日本一周はこの間ジクサーで終わらせちゃってね、今は東北一周してるんだ。」
「今回は、何の雑誌のお仕事でですか?」
「いや、プライベートかな。いつも旅してるしね。」
さすが、である………。
道の駅の軒先で話していると、天気は一気に悪化、雷を伴う豪雨となったので、しばしベンチで話し込むことにした。
「ここは任せてよ。」
とのことで、なんと売店で弁当なども買っていただく。僥倖とはこのことか。
「前の仕事はやめちゃって、今はほぼプライベートで日本制覇の旅をしてるんです。」
「おーいいねぇ、旅の期間はどのぐらいで?」
「だいたい、一年ぐらいかと…」
「1年!? 1年か~っうらやましいなぁ! 僕もそのぐらいしたいよ!」
正直、私如きが1年と答えるのに少し恥じらいはあったのだが、旅の鉄人は全肯定してくれた。
「1年ともなるとさ、いろいろと大変だと思うけれど。後々、”それをやっといてよかったなぁ”って思うときがぜっったい来るハズだから。糧になるはずだから、頑張ってよ!」
と、とにかく励ましていただいた。
”努力は報われる”といった類の言葉は錆びがつくほどあちこちで飛び交っているが、やはりこういう方が、同じような経験をしている方が言ってくれると、ともかく胸の内がスッとするものであった。
それから、実家のことや北山崎など岬の話、互いの今後の話、北海道の話などなど、話し込んでいると、予報より早く天から光が差し込んできた。
「それじゃあすまない、先に行くよ。」
バイクにまたがり、片手で挨拶をする賀曽利氏。ヘルメットをかぶると、こちらに向き直りこう言ってくれた。
「今日、こんなところで会えたのは、すっっっごく嬉しかった。どうか旅、頑張って達成してね。楽しい旅にしてね!」
俺も、すっごく嬉しかったです。と、言葉で表し切れない感動を伝えると。握手を交わし、鉄人は颯爽と軽快なパラツインの音を響かせ、道の先へと消えていった。
旅ってのは、いや、世界ってのはつくづく狭いというか、面白いものだ。
今日、岬巡りをしなければ。途中で雨宿りをしなければ。腹を壊してトイレに駆け込んでいなければ。恐らく、賀曽利氏に会うことはなかっただろう。
よく、”あそこであれをしなければこんなことには…。”と後悔することが多いが、それと同じくらい、世界は幸運であふれているのだろう。
雨上がりの空には、虹が架かっていた。